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損害賠償をめぐる問題点

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 知的財産権侵害については侵害があったかどうかの「侵害論」と侵害があった場合にその損害をどう算定するかの「損害論」があります。侵害論に気をとられるあまり損害の算定がおろそかになると十分な賠償をうけられないことになります。
知的財産権侵害を理由として損害賠償する場合に関係してくる法律には民法と各知的財産法があります。

民法についていえば
民法709条が損害賠償の最も基本的な規定です。現在は後述するように特許法などに損害賠償に関する規定がおかれましたが特許法などに規定がない問題が生じた場合は民法に従うことになります。
各知的財産法についていえば
まず特許法は102条に規定をおいています。
102条1項は平成11年の改正で新設された規定で損害額の高額化の立役者となりました。平成11年1月1日施行です。
102条2項は以前1項だった規定で侵害者の得た利益を損害額と推定しています。この規定でも高額の賠償が得られることがあります。
102条3項は以前2項だった規定で実施料相当額を損害額としています。この規定でいくと大した賠償額になりません。
その他の知的財産法はどうかというと実用新案法、意匠法、商標法は特許法102条を完全に準用しています。これに対し、著作権法、不正競争防止法には特許法102条1項に対応する規定はなく2項、3項のみとなります。

以下では主に特許法102条の内容について細かく説明しますが、まず大まかなイメージをもっていただくために簡単な設例をもとに考えたいと思います。詳しい解説は後でします。
設例
Aは特許権者であり特許製品(原告製品)を製造し1個2000円で販売していた。ところが、Bが特許権を侵害する製品(被告製品)を製造し1個1800円で販売するに至った。そこでAはやむなく1個1700円に値引きして販売した。結局Bは被告製品を合計1万個販売した。なお原告製品の製造原価(及び変動経費)は1個あたり600円である。一方、被告製品(1個ではなくトータルの)に関する製造原価と販管費の合計は2000万円である。AはBにいくら損害賠償請求できるか。


結論
特許法102条1項でいった場合の損害賠償額
{原告製品の販売価格(2000円)−原告製品の製造原価(600円)−原告製品の変動経費(一定しないが粗利益の20%程度)}×Bの販売個数(1万個)=1400円×0.8×1万=1120万円
特許法102条2項でいった場合の損害賠償額
被告製品の売上高{Bの販売価格(1800円)×Bの販売個数(1万個)}−被告製品の変動経費(一定しないが営業費用の20%程度)=1800万円−2000万円×0.2=1400万円
特許法102条3項でいった場合の損害賠償額
被告製品の売上高{Bの販売価格(1800円)×Bの販売個数(1万個)}×実施料率(通常3%)=54万円
特許法102条3項でいった場合にいかに損害賠償額が低くなるかがお分かりいただけるかと思います。

では実際の裁判でもそのようになっているのでしょうか。
最近10年間の損害認容額ランキングをここで一挙公開したいと思います。その際、特許法102条のどの条項でいったかも紹介します。


1 スロットマシン事件1(東京地裁平成14年3月19日判決)(74億1668万円)
102条1項 
2 シメチジン事件(東京地裁平成10年10月12日判決)(30億5936万円)
民法709条 
3 生海苔事件1(東京地裁平成14年6月27日判決)(12億4440万円)
102条1項 
4 スロットマシン事件2(東京地裁平成14年3月19日判決)(9億8870万円)
102条1項
5 手術用縫合針事件(東京地裁平成12年1月28日判決)(7億1562万円)
102条2項
6 帯鋼巻取装置事件(東京地裁平成13年12月21日判決)(4億3335万円)
102条3項 
7 生海苔事件2(東京地裁平成14年4月25日判決)(3億8289万円)
102条1項
8 タコグラフチャート用紙事件(東京地裁平成13年7月17日判決)(3億6742万5990円)
102条1項
9 ガス分析用採血器事件(東京地裁平成12年6月23日判決)(3億3687万2689円)
特許法102条1項、3項
10 温風暖風機事件(東京地裁平成13年9月6日判決)(2億8461万円)
102条3項
11 カビキラー事件(東京地裁平成11年11月4日判決)(2億7230万円)
102条3項
12 サーマルヘッド事件(京都地裁平成11年9月9日判決)(2億3030万円)
102条2項
13 United Sports事件(東京地裁平成14年1月29日判決)(2億円)
商標法38条2項(特許法102条2項に相当する)
14 カーネギー書籍事件(東京地裁平成12年9月29日判決)(1億7678万5252円)
不正競争防止法5条1項(特許法102条2項に相当する)
15 吊上げ用フック装置事件(東京地裁平成14年4月16日判決)(1億6200万円)
102条1項
16 自走式クレーン装置事件(東京地裁平成9年1月24日判決)(1億4256万円)
旧意匠法37条2項(特許法102条3項に相当する)
17 キャンディ・キャンディ商品化事件(東京地裁平成14年5月30日判決)(1億2742万8566円)
著作権法114条2項(特許法102条3項に相当する)
18 NEO・GEO事件(大阪地裁平成9年7月17日判決)(1億2180万円)
不正競争防止法5条1項(特許法102条2項に相当する)
19 トレー包装体事件(大阪地裁平成11年7月6日判決)(1億1453万7637円)
実用新案法29条2項(特許法102条2項に相当する)
20 塩酸ニカルジピン事件(大阪地裁平成14年4月11日判決)(1億1318万2000円)
特許法102条2項
21 青色発光ダイオード事件(東京地裁平成12年11月30日判決)(1億486万円)
特許法102条2項

ここで注目すべきはまず21件中18件が平成11年以降に出た判決ということです。
平成11年といえば特許法102条1項ができた年です。
そして実際、平成11年以降の18件のうち7件が特許法102条1項を適用した判決です。
もう1つ注目すべきは平成11年以降は以前からあった特許法102条2項を適用した結果、高額の賠償額が認められたケースが急増している点です。これは特許法102条1項の新設が102条2項の解釈に影響を与えた結果と思われます。
  
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