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成年後見 講演録

Tnetでの講演より
   今日は成年後見についてお話ししたいと思います。成年後見は新しい制度です。従来は禁治産、準禁治産というのがありました。この分野を専門にやっている弁護士というのはあまりいないと思います。おそらく不動産などを扱っている中で登記名義人が痴呆状態になっていることが判明してはじめて問題になるのではないかと思います。私が扱ったケースですとある夫婦が離婚したんですが夫の借金の担保として妻の母親名義の不動産に抵当権を設定していました。離婚したということで妻が抵当権をはずすよう求め銀行とも協議して抵当権を解除したうえ売却しようとしたのですが妻の母親が痴呆状態であることが判明しました。結局不動産を処分するには禁治産宣告が必要ということになりそれも費用がかかるということで放置されたようです。あるいは痴呆状態にある親に財産を贈与するよう求めたのに対し、別の親族が強く反対し、禁治産宣告を求めるということもよくあります。これは相続争いの前哨線みたいなものです。

 さて前置きはこのくらいにして、従来の仕組みとしては今述べたように禁治産と準禁治産というのがありました。しかしこの2つはとにかく行為能力を制限してしまおうという方向に偏りすぎていましたので、もう少し高齢者の自主性を尊重しようということで、新しい仕組みが2000年4月1日に施行されました。それが後見、保佐、補助の3類型さらに後で述べる任意後見です。

 まず後見についてですが、これが従来の禁治産に該当するものです。「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」について一定の申立権者が家庭裁判所に後見開始の審判を申立て、後見開始の審判がなされます。どの家庭裁判所に申立てるか、管轄の問題ですが、一応本人の住所地が基準になります。ただ入退院や転院を繰り返したりしているような場合はどこが住所といえるのかはそう単純には決まらないようです。「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある」かは原則としては鑑定により決めるわけです。これは主に精神科医に鑑定してもらうわけです。鑑定の方法としては鑑定書の雛型というのがありましてそれをもとにやってもらうわけです。費用的には15万程度でやってもらうようにしています。この費用は申立人が納めるわけです。期間的には2ヶ月から半年くらいだと思います。なお植物状態にある場合には鑑定不要です。本人の陳述もきいたうえで、後見開始の審判がなされます。後見開始の審判において成年後見人が選任されます。従来は配偶者がいる場合は配偶者が当然に後見人になることになっていましたが、現在では配偶者は後見人の1候補にすぎなくなりました。成年後見人は財産に関するすべての法律行為について本人(成年被後見人)を代理します。但し居住用不動産の処分は家庭裁判所の同意が必要で別途申立てます。本人が日常生活に関する行為(たとえば生活必需品の購入)以外の行為をなすには成年後見人の同意を要し、同意なしになされた場合は取消すことができます。生活必需品については取消し可能というのでは売ってくれる人がいなくなりますので購入に制約はありません。

 さて次に保佐ですがこれは従来の準禁治産に該当します。「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な者」について一定の申立権者が家庭裁判所に保佐開始の審判を申立て、保佐開始の審判がなされます。従来は浪費者が準禁治産宣告をうける対象として掲げられていましたが現在は浪費者というだけでは準禁治産とはなりません。保佐開始の審判において保佐人が選任されます。保佐人は本人の同意を得たうえで家庭裁判所が定める特定の法律行為について本人(被保佐人)を代理し、また本人が民法12条1項各号所定の行為をなすには保佐人の同意を要し、同意なしになされた行為は取消すことができます。民法12条1項所定の行為とは不動産の売却とか借金とかです。なお遺産分割協議に加わることも含まれます。この点は今回の改正で明確にされました。

 さて次に補助ですが、これは今回新設されました。すなわち「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者」について一定の申立権者が家庭裁判所に補助開始の審判を申立て、本人の同意を得たうえ補助開始の審判がなされます(鑑定原則不要)。補助開始の審判において補助人が選任され、補助人は本人の同意を得たうえで家庭裁判所が定める特定の法律行為について本人(被補助人)を代理し、本人の同意を得たうえで家庭裁判所が定める特定の法律行為をなすには補助人の同意を要し、同意なしになされた行為は取消すことができます。代理だけか同意だけか双方か、さらにその対象となる行為を状況に応じて選択変更できます。実際どういう行為を対象としているかというとお金の移動をともなう行為が多いようです。補助は非常に柔軟な制度と言われ今回の改正の目玉でした。しかしあくまで本人の同意を重視しているせいかまだ実例としては非常に少ないようです。ただ今後は増えていくでしょう。実務的に問題なのは保佐との関係です。保佐は事理弁識能力が著しく不十分な場合、補助は事理弁識能力が不十分な場合ですが、両者は連続しています。そこで事理弁識能力が不十分であることは明確だが著しく不十分といえるかは必ずしも明確でない場合をどうするかという問題があります。著しく不十分とはいえないということを厳密に証明させるのは大変なので、少なくとも不十分であることは間違いないのだから補助にして構わないとされています。

 以上が法定後見でした。これに対しあくまで本人が後見人を選んで自己を代理させることも認められました。これを任意後見といいます。後見人の報酬も当事者間で定めます。但し、任意後見契約は方式が定められ、また裁判所のコントロールを及ぼすこととされました。具体的には、任意後見契約の方式として「本人の生活、療養看護及び財産管理に関する事務の全部又は一部について代理権を付与する」内容でなければならず、「家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から契約の効力が発生する旨の特約」を付ける必要があり、さらに「公正証書」にしなければならないとされました。裁判所のコントロールとして、家庭裁判所は一定の申立権者の申立てにより本人の同意を得たうえで任意後見監督人を選任します(一定の場合には選任されない)。任意後見監督人は任意後見人の事務を監督し、家庭裁判所に定期的に報告します。なお任意後見監督人が選任されるのは法定後見の開始要件がそなわっている場合に限られます。本人が呆けてもないのに任意後見監督人の選任はできず任意後見も開始しません。ただ純粋な任意後見契約に付随して呆ける前の行為についての委任契約を締結したり、死後の葬式や埋葬、供養について規定しておくことは可能と考えられます。ちなみに任意後見契約開始後に代理権の変更はできません。あらたに代理権を設定する必要があります。あまり早い時期に契約を締結してしまうと後に代理すべき範囲が変わったような場合に対応できませんので注意が必要です。本人の利益のため特に必要がある場合には、家庭裁判所は一定の申立権者の申立てにより法定後見開始の審判をします。これにより任意後見契約は終了します。

 今回の改正で公示についても変更がありました。従来は禁治産、準禁治産は戸籍に記載されました。これに対し改正後は、登記所に備える登記ファイルに法定後見(家庭裁判所の嘱託)、任意後見契約(公証人の嘱託)について記録されます。これにより代理権の範囲を証明できるというメリットがあります。なお、登記事項証明書の交付を求めることができる者を限定しており、取引の相手方は含まれません。

 なおこれまでも地方自治体は福祉サービス利用援助事業を行ってきてきました。具体的には福祉サービスに関する情報提供、助言、福祉サービスの手続きの援助、福祉サービス料金の支払い、苦情解決制度の利用援助などであり以上に関連して日常的な金銭の管理も行っています。不動産がなく預貯金も数十万円の高齢者の場合はまさに地方自治体のサービスが機能することが期待され、成年後見を補完するものといえます。

 成年後見制度は始まったばかりです。現在は後見人側の受け入れ態勢に問題があります。弁護士会は後見人候補者を裁判所に提出しています。その他司法書士会の社団法人リーガルサポートが注目されます。これは法人であり全国規模で統一的なサービスが可能となっています。さらに調査官OBの組織も名乗りをあげています。まだまだ後見人選任の実例は少ないのですが早い段階から将来の財産管理について考えておくという共通認識が生まれれば大きく開ける分野だと思います。

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