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特定調停

 

(1)「特定」調停の語源

 特定調停も新しい制度です。平成12年に導入されました。これは簡易裁判所に調停を申立て債務返済の方法について話し合うというものです。個人の債務についても法人の債務についても利用できます。なお申し立てができるのは債務者だけで債権者の方から特定調停の申し立てはできません。債権者が債務者に特定調停を申し立てさせることはできます。
 「特定」調停の語源はややこしいです。法律上、破産状態にあるおそれのある債務者を「特定債務者」と呼ぶことにしています。この特定債務者の金銭債務に関する調整を「特定債務の調整」といいます。そしてこの特定債務の調整に関する調停を「特定調停」というわけです。特定調停は新しい制度と言いましたが従来全く存在しなかったわけではありません。以前は一般の民事調停として行われていたのです。ただそれでは不十分なので特別法をつくったわけです。
 

 

(2)大体のイメージ

 特定調停のイメージは離婚調停などとそう変わるところはありません。調停委員は2人で弁護士であるのが一般です。当事者が交互に調停室に入って自己の主張を述べます。調停委員からは相手はこう言っているが歩み寄れないか、などと言われます。当事者双方が同時に調停室に入って話し合うという場面はそう多くありません。調停は1回あたり1−2時間かかります。1回でまとまらなければ次回に持ち越します。特定調停の場合は会社の決裁をとる関係でどうしてもその場で結論が出ない傾向にあります。次の調停期日までの間隔は1か月程度です。最終的にまとまらなければ不調で終わります。調停がまとまると調停調書が作成されます。これは債務名義として公正証書のように即強制執行可能な効力が与えられます。その意味では公正証書代わりということもでき債権者にとって有利な面があります。
 

 

(3)調停であることからくる限界

 以上が特定調停の大まかなイメージです。所詮は調停ですから相手が折れてくれなければどうにもならないという大きな限界があります。もちろん調停委員や裁判官が相手を説得してくれることもあります。債権者が無理を言っているような場合には特定調停の結果、債権者が無理を引っ込めておさまるということが多いでしょう。たとえば、私の個人的な経験でいうと個人の債務整理を進めるなかで非常に強硬で、全く妥協しないような業者に対してはこの特定調停は有効といえます。個人の債務整理は利息制限法による調整を施した元本につき概ね3−5年の分割で返済するという線でまとまるのが通常です。もちろん返済原資が少ない場合は10年以上の分割というのもあります。通常は弁護士と業者の話し合いでそういった線でまとまるのですが中には全く妥協しない業者もいます。そういう場合特定調停にもっていくとあっさり折れてくることが多いといえます。これに対し、債務者の方から無理を聞いてくれという場合はこの特定調停は有効ではありません。借入の返済、回収といった話は感情の問題ではなく機械的でドライな領域ですので調停委員が特定の解決を誘導するということはできないといえます。
 

 

(4)特定調停の活用

 というわけで特定調停そのものには大きな限界がありますが法律で定められたツールを上手に利用して成果をあげることもできるのではないかと思います。

「自己破産しなくても強制執行が止められる」
 債務の返済をしないでいると給料の差押えをうけることがあります。通常はそれで泡を食って債務を返済して差押えを取り下げてもらう、あるいは自己破産や民事再生を大急ぎでやるということになるわけです。自己破産などしたくない場合は前者によるわけですが債務者の立場は非常に弱いといえます。ところが特定調停の場合、調停を申し立てれば調停終了までの間、強制執行の停止を求めることができます。強制執行停止自体は民事調停法にもあった制度ですが特定調停の場合は担保を積むことが必ずしも必要なくなったわけです。給料差押えが進むようでは対等な立場で調停を進めることができませんからしばらく差押えを凍結した状態で話し合いを進めるということです。ただ実際は無担保ということはまずないようです。合理的に考えて調停がまとまることが予想される場合は担保の額は少なくなると思われます。しかし債務者に返済原資がほとんどなく調停成立の可能性があまり高くない場合は担保の額も相当大きくなると思われます。なお自己破産や民事再生の場合は差押えの中止にとどまらず最終的には取消まで求めることができます。「取消」ということになるとたとえば債務者は会社から給料全額の支給をうけることができるわけです。ところが特定調停の場合は「取消」ではなく「停止」ですから、たとえば給料については債権者が会社から取り立てることはできないというだけであり債務者が給料全額の支給をうけることができるというわけではありません。給料のうち差押えられた分は会社がストックしておくことになります。

「消費者金融に取引経過開示させる」
 消費者金融からの借入について債務整理する場合、取引の履歴を全部開示してもらって利息制限法で計算し直したうえで分割払いの交渉をします。消費者金融は開示要求に応じるのが通常ですが5年以上取引がある場合には計算し直すと過払いになっていることが多く、そうなると業者もなかなか開示してこないことがあります。そういった場合に特定調停に持ち込んで、裁判所に文書提出命令を出してもらって開示させるということができます。この文書提出命令は特定調停で導入された新しい制度です。文書提出命令に従わないと罰則があるので従うのが通常です。

「特定調停で商工ローンに対抗する」
 さらに日栄、商工ファンドなどの商工ローン相手に利用する場合があります。これら業者の切り札は「手形」「公正証書」そして「連帯保証人」です。確かに高利ですから利息制限法で計算し直すと相当減るわけです。取引が古い場合は過払いになっていることが多い。ところがここが武富士などの消費者金融相手との決定的な違いなのですが、任意和解で気長に解決しようとするとまず手形を切っている場合は業者は手形期日に取立てに回してきます。そうすると資金手当てをしておかなければ即不渡りとなります。それでは倒産してしまうので手形を取立てに回すこと自体を止めてしまう必要があります。方法は2つで取立禁止の仮処分を得るか特定調停を申し立てるかです。取立禁止の仮処分とは、たとえば過払いだから債務はない、そのことを裁判で確認したいが裁判が終わるまで待っていると手形を回されてしまう、それでは困るので仮に手形の取り立てを禁止するというものです。仮処分が出れば最終的には裁判所の執行官が手形を回収してしまいます。非常に強い効力がありますがネックは担保です。現在の実務では手形金額の3、4割程度は積まなくてはならないようです。もう1つの方法が特定調停です。特定調停を申し立てると調停前の措置として手形取立禁止命令を得ることができます。しかも担保を積む必要がありません。ただこの命令に反して取立てに回すこと自体は有効です。仮処分のように手形が回収されるという効力もありません。しかし実際は業者は命令が出れば手形を取立てに回すことはしていません。手形をとめたうえで調停を進めることになります。さらにいえば切り札その2ないし3の「連帯保証人」に対する「公正証書」に基づく「給料差押」も商工ローン業者の常套手段ですが特定調停で止まると言われています。
 

 

(5)法人の債務整理に使えるか

「特定調停の魅力」
 資金繰りが危なくなった会社が裁判所に特定調停を申し立てることは有効でしょうか。資金繰りが危うくなった会社の生き残り策としては条件変更を含めた話し合いがまずあり、それが駄目な場合には民事再生という制度があります。民事再生というのは強力な制度ですが裁判所に対する予納金が300万円以上かかります(分納は可能ですが)。また基本的に破綻処理ですから失敗すれば自己破産となります。これに対し特定調停の場合はまず費用が桁外れに安い。申し立ての手数料は10万円もかからないでしょう。また特定調停がまとまらなくてもそれだけで自己破産に移行するということはありません。こういうメリットがあるので特定調停を法人の債務整理に使えないだろうかと考えるわけです。

「しかし実際は」
 民事再生であれば弁済率何%という条件で可決認可されたという結果が新聞などで報道されます。これに対し特定調停についてはそもそもまとまったのか、どういう条件でまとまったのかというのは一般に公表されません。従って法人の債務整理に有効かどうか検証しにくいのですが、私の経験でいうとなかなか難しいのではないかと思います。
 まずそのような緊迫した場面では裁判所の意思決定が適確迅速に下される必要があります。ぐずぐずしていたらあっという間にパニックになってしまいます。民事再生の場合は東京地裁であれば民事20部が専門に扱っています。これに対し特定調停については法人が債務減免のために申し立てるのは非常に少ないのではないかと思います。仮にそうであるとすると裁判所側にノウハウが蓄積されていないことになります。
 またこれは先ほども触れましたが調停の宿命として双方の合意が必要なわけです。ということは特定調停を申し立てられても組織の判断でおうけできないということになればそれで終わりです。逆に特定調停で合意できることであればそもそも当事者間の交渉段階で合意できているはずです。当事者同士の話し合いではダメだが特定調停ということであれば同意するという話はあまり聞いたことがありません(当事者で合意できたのだから特定調停をする必要はないでしょうということはある)。民事再生が多数決原理を貫き多数意見には従わざるを得ないというのと対照的といえます。
 さらに問題なのは調停がまとまるまで会社がもつかということです。特定調停がスピーディーにまとまるのであればまだいいですが実際には非常に時間がかかっています。特定調停も調停の一種にすぎません。現在簡易裁判所は特定調停の他にも膨大な数の調停事件を抱えています。その割には調停室の数は限られ調停委員も他に本職があるので都合が限られています。そこで申し立てをしてから第1回の調停期日まで1か月近くかかっています。第1回から第2回までも同じくらい時間がかかります。対照的なのが民事再生です。民事再生の場合は申し立てと同時に弁済禁止の保全命令が出ます。しかもそれはすべての債権者に効力をもちます。これがあるので取り立てができなくなるのです。また強制執行の中止命令もすぐに出ます。相殺も禁止されます。こういう強力な効果がすぐに実現されるのが特徴です。
 以上まとめると取引先に対する支払いには何の問題もなく銀行だけを相手にすればよいのであれば特定調停でもいいがしかし当事者間の任意交渉以上の効果は望めない、取引先まで相手にしなくてはいけない状況であれば特定調停では効力が弱過ぎて収捨がつかなくなるということになるでしょう。
   

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